第37回日本呼吸療法医学会学術集会~やすらかな呼吸を求めて~

第37回日本呼吸療法医学会学術集会

企画趣旨

シンポジウム

地域包括ケアをささえる地域密着型呼吸ケアの実現

多くの日本呼吸療法医学会会員は病院内で、しかも急性期呼吸管理を行なっています。日本の平均寿命は世界一となり、今まさに世界でも類を見ない超高齢社会となっています。ひとつの病院だけで急性期から慢性期まで病気を治療するには限界が来ています。呼吸不全の治療も、急性期を過ぎると慢性期、そして必要な症例には集合住宅も含めた、在宅の治療が継続されます。急性期の病院でも在宅用人工呼吸器を導入する症例も多くなり、また在宅人工呼吸器を装着したまま入院してくる患者も増加しています。病院の中の多職種によるチーム医療だけでなく、地域で呼吸管理のネットワークを形成し、予防から、急性期、回復期、慢性期そして在宅を含めた呼吸ケアを効率よく安全に実現していくべき段階に入ってきています。国も現在地域包括ケア体制の構築を推進しています。
このシンポジウムでは東京大学高齢社会総合研究機構準教授飯島勝矢先生に地域包括ケアについて基調講演を頂いた後、急性期から慢性期、在宅までどのようにして地域の呼吸ケアをささえていくかをデイスカッションし共通理解を深めたいと思います。一部は指定とし、一部は公募することにしました。多くの立場の方々にご意見を頂きながら、地域で如何にネットワークを作り、地域の呼吸ケアを支えていくべきかを話し合いたいと思います。

患児と家族に優しい小児在宅人工呼吸療法

家庭は家族との接触の機会も増え、患児自身には病院よりも年齢や個別の病態や性格に適合した療養・療育の環境となる可能性が高くなります。また社会的にも医療経済的に低コストであるので医療費抑制効果が期待出来ます。しかし、日本の現状では小児在宅医療を推進するには以下の様な大きな障害が立ちはだかっています。1)乳幼児を在宅医療に移行した場合には母親を中心とした家族に肉体的・精神的・経済的に過大な負担がかかる。その負担を軽減させるための病院への2)レスパイト入院は医療保険上認められない。一方では、3)人的・経済的理由から施設への短期入所受け入れは人工呼吸器装着等の医療ケアの高い乳幼児は敬遠されやすい。4)人工呼吸器装着等の医療ケアの高い児の緊急入院の保証が難しい。5)小児を取り扱う在宅療養支援診療所が極端に少ない。6)訪問看護ステーションの利用率が低い。6)介護保険のケアマネージャーに該当するコーディネーターが確立していない。
こうした厳しい条件の中でも、我々は患児と家族に優しい小児在宅人工呼吸療法を実現するにはどうしたらよいかを考えるために、今回のシンポジウムを企画しました。

症例検討による人工呼吸管理中の早期リハビリテーションの実際

人工呼吸管理中にある重症患者に対する早期リハビリテーションの重要性が提唱されているが、安全かつ効果的に進めていくことは容易ではない。本シンポジウムでは、実際の人工呼吸症例を提示して、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などから構成される演者による多職種チームを想定したリハビリテーションの進め方や介入の実際、そのポイントについて議論していただく。演者の方々には特に、どの様に評価結果と問題点を整理し、介入目標を立て、プログラミングとリスクマネージメントを行うか、効果判定はどうするかなどについて、具体的な考え方や意志決定方法をご提示いただきたい。また、当日は聴衆も参加できるような議論が展開できればと考える。

在宅人工呼吸療法(HMV)~最近の進展~=機器性能と日常活動能との接点=

現在HMVの領域ではNPPV用機器を含めた人工呼吸器の日進月歩の開発により、その性能が極めて良質化されてはきているが、それが在宅呼吸管理の質や安全性向上にいかに寄与しているかについてはまだ明らかにされていないことが多い。 
今回のシンポジウムではその点に関して、まず在宅でどのような機器の性能が生かされているか、特に日常労作時の呼吸状態や酸素化の変動の激しいCOPDを取り上げ、次々新しいmodeなどを盛り込んだ呼吸器の性能や携帯用酸素ボンベに関する注意点に付いて説明して頂く。さらに最近臨床現場での使用頻度の高いhigh flow nasal cannula(HFNC)の在宅での可能性にも言及していただく。
次にそれを監視する体制としてまず機器のmonitoring機能・家族の支援体制・さらにそれを取り巻く医療者の連携について、現状を述べて頂き、安全の確保ができるような工夫について提示していただく。
神経筋疾患については、呼吸器疾患とやや異なる対応がなされており、小児の神経筋疾患を中心に日常の動作と呼吸管理の関連について解説いただき、また生活の多くを占める睡眠中のモニターについてもその意義を述べて頂く。
一方理学療法士の立場から呼吸器を間歇あるいは連続的に使用しながら運動療法を行うにはどのような工夫が必要か、またその訓練方法はどのように行えば効率が良いかについて概説し、また地域との関連も提示頂く。

わが国におけるECMO:現状と可能性

2009年CESAR studyは、RCTにて成人呼吸不全に対するECMOの有用性を証明した。また、2009年に流行したH1N1インフルエンザでは、重症例がECMOを使用し救命された。しかし、日本でのECMOを使用した重症インフルエンザ肺炎患者の生存率は36%で、海外の報告と比較し明らかに悪い。現在、本邦においてもECMOの成績は改善してきているのだろうか?
ECMOは侵襲性の高い治療であり、それゆえ管理に熟練したチームと高性能のシステムが不可欠である。本シンポジウムでは、日本のECMOの現状と将来への展望を中心に論議する。

小児の呼吸不全管理の新展開、次の手法をどの患者に用いるか

現時点で我々が使用しうる呼吸補助法は、人工呼吸としては非侵襲的なものから侵襲的なものまで、さらにはextracorporeal membrane oxygenation のように人工呼吸以外の方法によるものなど、多様化している。その中で、近年、あらたに小児の呼吸管理に導入されたり、既存の方法ではあるが見直しがされているものを取り上げて議論をすることにした。低侵襲的な補助法としてのnasal high flow oxygen therapy、食道にプローブを挿入して人工呼吸を行う方法としての食道内圧測定とneurally adjusted ventilator assist 、人工呼吸管理に併用するガス療法としてのhelioxの4手法である。比較的軽症の患者にどの手法を用いるか、気道抵抗が上昇している気管支喘息や急性細気管支炎の管理にこれらの手法がそのように生きるのか、あるいは、重症のacute respiratory distress syndromeの管理にどの方法が活かされるのか、人工呼吸器からのウィーニングにおいてこれらの手法はどのような利点があるのか、といった観点から、4つの手法の特徴を会場の皆さんと考えたい。

臨床工学技士の目指す呼吸療法

呼吸療法は臨床工学技士業務の重要な業務のひとつであり、それに携わる臨床工学技士の数も増加している。また、日本臨床工学技士会による呼吸治療専門臨床工学技士の認定制度が実施されている。しかし、呼吸療法に関する業務内容には施設による違いがあり、その範囲も様々である。更に臨床工学技士養成施設における呼吸療法に関する教育内容は、臨床現場で必要とされる知識には不十分である。今回のシンポジウムでは、呼吸療法に携わる臨床工学技士の現状を踏まえ、米国での呼吸療法士との相違点や医師からの提言を参考に、業務内容、教育システム、今後の課題を考え、臨床工学技士の目指す呼吸療法についてディスカッションする。

NPPV 解決すべき諸問題

現在、NPPVに関して解決すべき問題がいくつかある。近年、新しい換気モードがいくつか開発され臨床データも集積されつつあるのでその有効性に関して議論したい。急性期におけるNPPVでは、特にⅠ型呼吸不全においてネーザルハイフローとの使い分けが最も重要な問題となっている。さらに、NPPV下の鎮静の有効性とその使用方法が検証される必要がある。慢性期においては、COPDに対して長期NPPVが本当に有効かどうか長らく研究されてきている。おそらく一部の症例に有効であると考えられるが、最新の臨床研究をレビューしてもらい議論したい。同時に長期NPPVにおける睡眠薬の意義に関しても議論したい。最近、在宅NPPV器より得られるデータを用いた管理が提唱されているが、その利点と問題点を整理・検証し、実臨床につなげる必要がある。比較的若手の臨床家をシンポジストに迎えて熱い議論を展開したいと考えている。

人工呼吸器関連肺炎update

人工呼吸器関連肺炎 VAPについては本学会会員の皆様も深い関心を寄せられていると存じます。本シンポジウムではまずVAPの予防診断治療について志馬先生にお話しをいただきます。その後、感染症治療における第一人者である高倉先生にVAPにおける抗菌薬治療を中心に概要を説明いただきます。岸本先生には口腔外科医として口腔内ケアとVAPというまだまだエビデンスの少ない領域について何を考えるべきかをお示しいただきます。林先生にはVAP治療における現時点での問題点を中心に解説をいただく予定です。VAPの予防診断治療がいかに困難で未解決の問題が多いかについてこの企画で知っていただければ幸いです。また本シンポジウムとは別に特別発言として志馬先生にVAEサーべーランスについて御紹介をいただく予定をしております。

パネルディスカッション

人工呼吸器離脱をチームで実践する

人工呼吸器からの早期離脱に関しては、3学会(日本呼吸療法医学会、日本集中治療医学会、日本クリティカルケア看護学会)が合同で人工呼吸器離脱プロトコールを検討しているように、医療チームで患者情報を共有し、対象や方法を検討することが推奨されてきている。我が国においてもRST(呼吸ケアサポートチーム)などが主体となってこれらの取り組みを実施している施設も増加している。今回医療チームとして人工呼吸器離脱に取り組む是非を含めた現状報告などから、チームで取り組むうえでの成果や課題を検討していきたいと考えている。

ワークショップ

ARDS文献レビュー

本ワークショップは、ARDSに関する最新文献を概説し、2015年のトレンドを一気に理解していただくことを主眼にしています。ご登壇をお願いしたのは、本学会会長である京都府立医大集中治療部 橋本 悟委員長のもとに作成中の、ARDS診療ガイドライン作成委員の皆様です。おそらく現在、日本でARDSの文献を最もお読みになっている先生方と思います。演者の先生方には「歴史を踏まえた現段階における標準」や「今後各領域がどのように展開していくのか」がわかるような、「専門医クラスの方も満足していただける」ような内容をお願いしました。共同座長をお願いした大阪大学麻酔・集中治療医学教室 藤野 裕士先生もこの分野の専門家でいらっしゃいますので、密度の濃い2時間になることが期待されます。フロアーの皆様には論文サマリー・テーブルをお渡しします。ARDSフリークの皆様(そうでない方も)是非お立ち寄りください。

ミート・ザ・エキスパート

Electrical Impedance Tomography(EIT)を用いた人工呼吸設定と評価

人工呼吸器関連肺傷害(VILI)の存在が明らかとなり、肺保護換気戦略の重要性が認識された。しかし、その具体的な方法はいまだ定まっていない。VILIの発生では1回換気量が肺内で均一に分配されない不均一換気という現象が重要である。
換気設定の均一性を評価する方法としてEITによる換気分布評価が提案され、海外では有効とする報告例が増加している。日本でも複数施設が入手し検討を開始した。
本セッションでは肺保護換気戦略を実施するうえでEITが提供する情報をどう利用するかついて、胸部CTとの相違点、PEEP設定、肺局所換気モニタリングの3点に焦点をあて検討し、EITの臨床的意義を考えたい。

睡眠時無呼吸と困難気道

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)は近年、わが国でも現代病の一つとして注目されている病態です。困難気道(difficult airway)の原因の一つともされているこのSASをより深く理解することで、SASを基礎疾患としてもっておられる方の呼吸管理をより安全なものにしたいとの思いで3人のエキスパートにこのセッションをお願いしました。陳和夫先生にはSASの第一人者として、SASの概要およびその治療法について御解説いただきます。磯野先生にはSASおよびその病態に関連した困難気道等に関するご自身の興味ある知見についてお話しいただけるかと思います。落合先生に呼吸療法医学会会員として知っておくべきSASと困難気道の知識を総まとめしていただく予定です。

(第37回日本呼吸療法医学会学術集会 会長 橋本 悟)

医療ガストラブルミニハンズオンセミナー

麻酔集中治療の現場では、酸素および圧縮空気は必要不可欠な医療資材であり、一瞬たりとも途絶しないように管理することが、呼吸療法スタッフに求められています。しかし、大震災時のように万が一にも医療ガスが途絶した場合に、どのような現象が人工呼吸器に認められ、どのように対処すべきなのかについては、私達はほとんど教育されていません。過去の本企画において知識レベルをアンケート調査した結果(総参加者数846名、回収率71.7%)では、医療従事者の医療ガスの知識レベルは非常に低いことが判明しています。たとえば「ガス供給停止」について知っておくべき知識のうち、未知部分の割合は、医師:65.9%、看護師:75.7%、理学療法士:73.5%、臨床工学技士:47.9%でした。そして、経験年数と知識レベルの間には全く相関を認めず、医療ガスの知識は教育を受けなければそのレベルは決して向上しないことが明らかとなりました。しかし、稀にしか起きない事象を学習することは効率が悪く、専門書は難解で、教育は決して容易ではありません。
そこで本企画では、人工呼吸中に酸素・圧縮空気が途絶した状況を檀上に再現し、実際にどのような問題が発生するのか皆様の眼前で展開し、緊急時の状況を疑似体験して頂きます。通常のハンズオンでは教育効果は高いものの参加者数は限定されますが、本企画では壇上で繰り広げられる創意工夫によって貴重な体験を、非常にリアルに多くの参加者に共有して戴けます。これ即ち自称「ミニハンズオン」の意図するところです。効果的な医療事故防止のための教育には、リスクのワクチン(vaccination of risk)が必要であると私達は考え、本ワークショップでは新鮮な驚きをもって見て戴けるような生ワクチン企画にしました。ご参加頂くと、日常業務において軽視されている問題が実に多くあるということに気付かれことと思いますのでご期待ください。

参加をすべきか否かをご検討の方は、以下の4つの問題にトライしてみてください。もしくは、医療ガス知識のセルフチェックテストQ20にトライしてみてください。下記4問の解答はセルフチェックテストQ20のなかにあります。合格できないとお感じになれば、是非とも本企画にご参加ください。ご参加の皆様には、セルフチェックテストQ20の解答と解説をミニハンズオン終了時に配布致します。

<抜粋:医療ガス知識のセルフチェックテストQ.20>

1.正しい酸素ボンベの運搬は?
2.高圧ガスボンベである酸素ボンベについて
①充填済みボンベの内圧は約何気圧か? 通常使用される圧力単位ではいくら?
②ボンベの肩にある打刻印について、以下は何を表すか?
(ⅰ) V 3.4  (ⅱ) W 5.3 (ⅲ) TP 24.7 (ⅳ) FP 14.7
3.酸素ボンベの保管について正しいものは?
①酸素ボンベは変圧装置・配電盤から1メートル以上離す。
②酸素ボンベは45℃以下の環境で使用する。
③ボンベの使用は高圧ガス保安法と薬事法によって規定される。
4.中央配管システムについて答えよ。
①②の名称は? 酸素の配管位置は③④⑤のどこ? また、その配管圧は?

⑥院内の壁面にある右図の装置の名前と役割は?
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